消費者契約における「反対給付としての個人データ」
—EU消費者私法の新機軸—

関西大学教授 馬場圭太

1 個人情報の提供は無償か有償か

 情報通信技術の発達にともない、消費者が日常的に行う取引の中で、ソフトウェア、音楽、映像、ゲーム、データベース等のデジタル・コンテンツを扱うことがしだいに増えている。これらのデジタル・コンテンツは、かつては主として有体の記録媒体を用いて提供されていたが、最近は、ダウンロードやストリーミングといった通信回線を用いたデータ転送が主流を占めている。また、比較的単純なデジタル・コンテンツ取引に加えて、音楽・動画の配信サービスやSNSといった多種多様なサービスを複合的に供給する取引が拡大している。

 ところで、この種の取引では、契約を締結する際にまたはその継続中に、消費者が自己の個人情報を事業者に提供することがある。もちろん、商品を配送するために氏名や住所を提供する場合のように、事業者が契約を履行するために必要な個人情報を提供することはこれまでにもあった。しかし、現在、これまでとは異なる新しいビジネスモデルが広く普及しており、新たな問題を提起している。すなわち、事業者が、デジタル・コンテンツを提供する際に、代金の支払いに代えて消費者の個人情報を収集・・・

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