認知機能が低下した高齢者に対する着物等の次々販売の紛争案件の紹介

弁護士(大阪) 浅野永希

1 はじめに

 令和3年6月に大阪市消費者保護審議会1が公表した「認知機能が低下した高齢者に対する着物等の次々販売に係る紛争案件(令和2年度第1号案件)」の報告書(以下、「本報告書」という)を紹介する。

 高齢者を狙った次々販売による被害はこれまでも多くの事案が報告されており、被害救済のための法制度(過量販売取消権等)が設けられ、消費者契約法の改正により(平成29年6月3日施行)ひろく消費者契約一般に適用できることになった。しかしながら、その後も依然として多数の被害相談があり、裁判例が乏しいこと(本報告書でも過量販売取消権を適用した裁判例は公刊物上で確認できないと指摘されている)。また、適用指針も示されていないことから、上記改正法が実務で充分に機能しているとは言い難い状況である。

 本報告書では、次々販売被害の典型例ともいえる事案につき、当事者から綿密な事情聴取を行い、様々な方面から調査・検討を加えたうえで解決に至った経緯及び背景事情が詳細に記載されている。今後の消費者相談実務や裁判実務においても参考になるところも多いと思われる。

2 事案の概要

 本件の契約当事者(消費者)は年・・・

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