弁済充当の本質・充当合意は必要か
─「他の債務への充当」と充当順序の特約─

弁護士(神奈川) 茆原洋子

1 最判平成19年2月13日(民集61巻1号182頁)の「不当利得返還請求権行使や相殺があるので特段の事情がない限り基本的に充当されない」とする誤った判決(誤りの理由は後述)、およびこれに微修正を加えて、「充当合意」という用語を使い始めた最判平成19年6月7日(民集61巻4号1537頁)以後、「充当合意はないので充当されない」として過払金の充当を制限する判決が多数出されてきた。借主を代理する私達の仲間の中でも、「充当合意が存在するので、充当される」と主張立証しなければ、充当問題で勝つことはできない、といった風潮が蔓延している。果たして、それでいいのか。

2 振り返れば、丁度、日栄が手形毎に「別の債務であるので、充当されない」と主張した時に、法律家の多くが「実体として一体であるので、充当される」と主張することに力点を置いた。日栄の設定した「取引が別であれば充当されない」という暗黙の前提を問題としないまま、日栄が「取引が別であるか同じであるかが問題」として設定した土俵に上がってしまった結果、敗訴判決が山積みになったのである。「充当合意があるかないか」という土俵で負け続け・・・

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