弁護士(大阪) 渡辺 慧
1 はじめに
広島高等裁判所岡山支部令和6年9月26日判決(本誌№142号掲載)は、当時72歳であり認知症に罹患していた控訴人が証券会社の担当者の勧誘を受けて仕組債を購入し、損失を被った事案である。
仕組債とは、一般的な債券にはみられないような特別な「仕組み」をもつ債券をいう。「仕組み」により、満期やクーポン(利子)、償還金などを、投資家や発行者のニーズに合わせて比較的自由に設定することができる。
このような仕組債について、金融庁は、令和4年5月、「資産運用業高度化プログレスレポート2022」を発表し、「(仕組債の)購入者は、……個人投資家が一般的な債券のリスクとして抱くイメージとは大きく異なるリスクを引き受けることとなる」「リターンはリスクに見合うほど高いとは言えない」「株式に代えて(仕組債)を購入する意義はほとんどないと考えられる」等の意見を示した。これらの発表を受け、現在、ほとんどの証券会社等は仕組債の販売を停止している。
一般的に、人は高齢になると理由は様々であるが認知判断能力が低下する。
本判決は、証券会社の担当者は、控訴人との日常的なやり取りを通じて、控訴人の・・・
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