旧統一協会による公的施設利用への対処

弁護士(神奈川) 吉田正穂

1 はじめに

 筆者が所属する全国霊感商法対策弁護士連絡会(以下「霊感弁連」)には、様々なカルト宗教団体、霊能師、占い・開運商法に関する被害相談とともに、それらの活動に関する情報も寄せられる。今般、横浜市内の公的施設で世界平和統一家庭連合(旧世界基督教統一神霊協会、以下「旧統一協会」)が活動をしているとの情報が寄せられたため、霊感弁連からその利用を抑止すべく申入れを行ったところ、相当の成果を得られた。以下、その顛末について報告する。

2 公的施設利用の実態

 旧統一協会は、いわゆる霊感商法で悪名が高く、霊感弁連が集計した相談は1987年から2019年12月までの33年間に合計3万4276件、被害合計は1224億円余にのぼっている。2012年に教祖文鮮明が死去した後も名称を変更して活動を継続しており、霊感弁連に所属している弁護士が関与して現在係属している旧統一協会に対する損害賠償請求訴訟は、当稿執筆時点で13件に及んでいる。

 2019年末、ある女性ジャーナリストが、JR戸塚駅において配布されていたチラシ(左欄)を入手し、横浜市内の公的施設において旧統一協会が主催する講演会に参加したところ、“姓名判断で有名”であると紹介された男性講師が、旧統一協会の霊感商法において特徴的な“因縁トーク”を述べたてた上で、「教祖の文鮮明もおっしゃっています」などと故文鮮明の教えに依拠した講演を行っていたとのことであった。

 従前、旧統一協会の関連団体が公的施設を利用しているとの情報が寄せられた場合、霊感弁連からしばしばその利用を阻止すべく申入れを行うことはあった。今回は旧統一協会がその名を冠して講演会を行い、教祖の名をも発しているとのことであるから、従前に比しても深刻な事態であって、およそ看過できるものではない。早速、霊感弁連にて対処することとなった。

3 申入れとその後の経過

 2020年6月25日付けで当該公的施設の管理を委任されている公益財団法人(以下「当該公財」)、管理の委任者たる横浜市、当該公財に公益認定を付している神奈川県に対し申入れを行った。当該公財には、旧統一協会による施設の利用実績・利用予定、今後も利用させる意向が有るか否かを書面にて明らかにするよう求めた。横浜市に対しては、当該公財について報告・調査及び指導を求め、神奈川県に対しては、現状が放置されるような場合には当該公財の公益認定を取り消すよう求めた。

 この申入書を発送した翌日、筆者は神奈川新聞の取材を受け、6月27日付け同紙社会面においてかなりのスペースをもって取り上げられることとなった(上欄)。神奈川新聞が取材の過程で横浜市役所の担当部署にも接触するなどしたため、7月3日の市長定例会見において旧統一協会による当該公的施設の利用実績の一部が明らかにされ、市長自ら適正利用を徹底する考えを示すに至った。

 最終的には、当該公財から7月30日付けの回答書を受領し、過去3年にわたり計12回に及ぶ旧統一協会の利用実績が明らかにされた上、今後の利用予定はないが、利用申込みがあれば慎重に審査するとともに、利用時には職員が立入調査をし、宗教の勧誘や商品販売など禁止する不適切な行為が確認された場合は利用許可を取り消すなどとする説明がなされた。

4 まとめ

 霊感弁連の従前の申入れに比しても、これほど明確な回答が寄せられ、今後の利用を抑止できた例は、筆者の知る限り存しない。かかる成果の最大の要因は、地元紙の積極的関与にあるが、紙面を通じて旧統一協会による被害が今なお継続していることを世間一般に知らしめることができた意義も大きい。

 神奈川新聞は、7月5日付け社説においてもこの問題を取り上げ、カルト宗教による公的施設利用の問題の本質を鋭く指摘しているので、以下、その記載を引用して本稿の終わりとしたい。

 「公的施設は市民に広く開かれるべきものであることは言をまたない。利用を不当に排除するような運用はあってはならないことは、協調しておかねばなるまい。一方で、公的施設で開かれる催し物は、それだけで利用者に安心感を伴って受け止められる側面があるのも、また現実だろう。被害の訴えが多く寄せられている団体の活動に会場を提供することは、行政が実質的にその活動を後押しすることになってしまう」