大学等におけるカルトの活動の実情

日本脱カルト協会(JSCPR) 岩野孝之

1 ダミーサークルによる正体を隠した勧誘

 国内には大学生を勧誘のターゲットとしているカルト団体が複数存在しています。それらの団体には、正体を隠して勧誘を行うという特徴があります。カルト団体は大抵の場合、これまでに起こして来た高額献金や性的暴行といった被害事例がネット上に掲載されているため、教団名でネット検索をされると、そこが危険な団体であると認識されてしまいます。勧誘対象者がそうした情報を見てしまうと勧誘に失敗してしまうので、カルトは教団名や教祖の名前などを隠しているのです。そうした団体は、一般的なサークル活動の姿を装って、大学生などの若者を勧誘しています。

 カルト団体の信者が学生に声を掛けるのは、大学構内の路上、掲示板の前、売店、図書館、食堂、教室内など多岐にわたります。また、2000年代中頃に大学構内でのカルト教団の勧誘がメディアで取り沙汰されてからは、街中での勧誘へ移行する動きも見られました。大学構内であれば大学が勧誘行為の規制など対策を施すこともできますが、街中となるとそうしたことも難しくなります。街中では、駅前、デパート、書店、ファーストフード店、喫茶店などで勧誘を行っています。声を掛けるきっかけは様々で、大学の掲示板前であれば「何か良いアルバイト情報ありますか?」と話しかけたり、図書館や書店では、英会話のコーナーにいる人に声をかけ「私の友人が帰国子女で、今度無料で英会話の講座を開いてくれるので、良かったら来ませんか?」などと、教団が勧誘のために用意しているダミーサークルへ誘ったりします。料理コーナーにいる人は料理サークルに誘うなど、勧誘対象者の興味に合わせて巧みにダミーサークルを使い分けます。他に、ダミーサークルの例としては、サッカー、バレーボール、バスケットボール、フットサル、野球、ジョギング、ダンス、チアリーダーなどのスポーツ系サークルや、合唱、ゴスペル、演劇、韓国語講座、国際交流イベント、勉強会セミナー、医療系セミナー、就活セミナーなどの文科系サークルなどがあります。

2 勧誘対象者との親密性の強化

 カルト団体は基本的に一年中を通して勧誘活動を行っていますが、一番の狙い目は、やはり新入生の入学シーズンです。大学に進学して、親元を離れて一人暮らしを始め、まだ友達も少なく、サークルにも所属していない、そうした新入生が狙い目となります。大学の合格発表の日に、信者が大学構内を歩き回り、受験生と思しき若者に「親戚の合格発表を見に来たんですけど、合格発表ってどこでやってるんですか?」などと話しかけ、大学に入ったら何をしたいかなどフレンドリーに会話を進め、合格していた受験生に対してはお菓子などのお祝いをプレゼントしつつ、メールアドレスやLINEアカウントを交換するなどして、関係性を築いていきます。

 声かけを受け、ダミーサークルに誘われた学生は、何も知らずサークル活動に参加します。とてもフレンドリーに迎え入れられ、サークルの雰囲気も明るく前向きなので、良いサークルに入ることができたと喜ぶ学生も多くいます。信者は新しく勧誘された学生に対して「大学生活のことで分からないことがあったら、なんでも教えてあげるよと」などと、とても親切な先輩として、きめ細かな対応をします。大きな都市であれば、多くの信者が存在し、多様なサークルを運営しているため、誘われた学生はほぼ毎日、カルト団体のダミーサークルに参加し、密度の濃い時間を過ごすこととなります。勧誘された学生にとっては、信頼できる友人たちと楽しく充実した日々を過ごしているという感覚になります。日々共に食事をし、銭湯に行き、拠点となるマンションに泊まったりすることで、親密な関係を深めていきます。その中で、将来の夢はあるか、今困っていることはないか、などプライベートな領域にも踏み込んでいき、学生はもはや家族同然に感じている信者に対し、心を開いて、個人的な悩みなどを打ち明けるようになっていきます。

3 教義教育と信仰心の育成

 個人的な悩みを打ち明けた学生に対して信者はとても親身になって相談に乗ります。そして、キリスト教系のカルトであれば、「◯◯君も、きみと同じ悩みを持っていたけれど、聖書の学びを通して、今では完全に克服し、あんなに輝くようになったんだよ」「◯◯さんが無料で聖書の入門講義をしてくれるから、聞いてみると良いよ」などと、教団の教理の学びに誘っていきます。一般的な日本の若者は宗教に対して「怪しい」「怖い」「お金を取られそう」といった漠然としたイメージを持っているので、出会ったばかりの段階でいきなり聖書の話を持ち出すと学生は離れてしまいますが、上記のように親密な関係を築き、個人的な悩みも打ち明けた状態で、その悩みの解決策として聖書を持ち出されると「キリスト教に特に興味はなかったけど、少しくらいなら聞いてみようかな」といった気持ちになっていきます。

 聖書の話を持ち出した段階でも、教団は正式名称や創始者の名前などを明かさないどころか、宗教団体であることさえも明かさず、あくまで「聖書を教えてくれる◯◯さんが個人的にクリスチャン」という程度の説明にとどめたりします。そうすることで学生に「もしかして私は宗教団体に勧誘されているのでは」という危機感を感じさせないようにします。また、聖書の学びの内容は教団独自の教義なのですが、そのことも明かさず、あくまで一般的なキリスト教の教義であるかのように進めていきます。講義の内容は、最初の頃は、神を信じていない人でも受け入れやすいような、ごく一般的な教訓のような話から始めていきます。そして、「神様って目には見えないけど、実は本当にいるんだよ」「聖書は神様が人間を通して書いた真実の書物」「神様を感じられないなら、試しに、お祈りをしてごらん」といった具合に、徐々に神の存在や聖書の真実性を説き、日々の生活の中で祈りを実践するように指導していきます。悩んでいることの解決のために祈ったり、その学生が必死に勉強している資格試験の合格のために祈ったりなど、学生本人の持つ問題の解決のために祈る習慣を持たせていきます。そのように、神に祈りながら、聖書の学びを行う日々を過ごしていると、少なくない学生が“神様の働き”を感じるようになります。祈っていたことが不思議と叶ったり、自分が聖書の学びや祈りをさぼった後には悪いことが起きたりなど、客観的に見ればそれはただの偶然や思い込みであったとしても、本人にとってはなんとも不思議かつ感謝や悔悟の強い感情を伴う臨場感のある体験となります。そうした体験をするごとに、最初は信仰が全くなかった学生の心の中にも、神や聖書への信仰心が生じていくようになり、「神は実在し、神の言葉を学び、祈ることで、自分は救われていくのだ」と、実感を持って感じるようになっていきます。そうなると、学生は自ら真剣に聖書を学び、祈るようになっていきます。

4 口止めと批判対策

 学生の信仰心が強まり、聖書講義の課程が進んでいくと、教団独自の教義の核心部分に入っていきます。大抵の場合「その教団の創始者こそが神に選ばれた現代のメシア・キリストである」といった内容です。そうなると一般的なキリスト教の範疇を逸脱していますから、一般的なキリスト教からは“異端”とみなされることとなります。しかし、信者は「私たちの教えこそが正しく、既存のキリスト教が間違っている」「この教えを信じて実践する人だけが、本当に救われる」などと教え、自分たちの教えの優位性を説くと共に、「この教えの内容は口外しないように」と口止めします。そうすることで、学生が特殊な団体に関わっていることを、学生の家族や友人に気づかれないようにします。ここに至って、教団はようやく教団名や創始者の名前を学生に明かします。また、必要に応じて、教団や創始者からの被害を訴えている人たちの存在や、過去の訴訟、服役経験なども明かし、「それは教団や創始者が悪いことをしたからではなく、サタンや悪魔の働きかけを受けた人たちが教団を攻撃(迫害)するために嘘の被害証言を行ったせいだ」「きみの信仰を邪魔する人がいたら、それらは皆サタンの働きを受けているものだから、絶対に負けてはいけない。もし負けたら、救いは得られなくなり地獄に落ちてしまう」「だから被害者の言うことを信じてはいけないし、そういう情報を見ないようにしなさい」などと、批判に対する対策教育を施します。そのため、学生は教団に批判的な情報が書かれた本や新聞やネット記事などは読もうとせず、家族や友人がその教団を離れるよう説得しても、聞く耳を持たなくなります。もし教団を離れたら自分は地獄に落ちると教えられているため、教団を絶対に離れないよう固く決意するようになります。

5 信者としての活動

 この段階まで来た学生は、正式に教団に入信し、信者となります。毎週日曜日の礼拝に出席する他、水曜夜の礼拝、金曜夜の祈祷会、毎朝早朝からの祈祷会など、日々多くの集会に参加して教祖の説教を聞いたり、新たな学生の勧誘のためのダミーサークルの企画・運営に携わって、大学や街中に出かけ勧誘のための声掛けをしたりするようになっていきます。カルト被害者が加害者になってしまった瞬間です。信者になれば献金やお布施などもするようになります。教団によっては、信者に借金をさせてまで献金をさせたり、教団の運営する事業会社で無賃労働をさせたり、一般人に高額商品を売りつけさせたりします。そうした得られたお金は、教団専従で働く教役者の給与や、不動産の購入維持費、教団本部への上納献金として使われていきます。教団によっては、教祖が女性信者を面談や健康診断と称して呼び出し、密室で性的行為を行ってきたという証言も多数あります。

6 SNSを用いた勧誘

 近年、また、特に新型コロナウイルス感染拡大下において、TwitterやFacebookやInstagramやLINEなどのSNSを用いた勧誘が多くなっています。信者は検索機能を使って大学新入生のアカウントを次々に見つけ出し、警戒心を抱かせない程度のコメントをつけていきます。反応のあったアカウントに対して、いくつかコメントのやり取りをした後、ダイレクトメッセージでの会話などに移行し、相手の興味を聞き出しつつダミーサークルの勧誘につなげていきます。この方法では、家にいながらにして数多くの新入生と接触することが可能である上に、それが宗教勧誘アカウントであるとの噂が立ちそうになったらすぐにアカウント名を変更するなど、路傍勧誘よりも更に巧妙な勧誘が可能となります。Zoomなどを利用したオンラインでのダミーサークルのイベント開催も増えています。大学生だけでなく、専門学校生、高校生、中学生なども勧誘のターゲットとなっています。

 このように、時代の変化に応じてカルトの活動が更に巧妙化しています。カルト被害をなくすためには、今後もカルトの活動の詳しい動向を注視していく必要があります。