個別救済と被害防止の相剋を超えて

弁護士(東京) 齋藤雅弘

1 はじめに

 津谷裕貴弁護士(以下「津谷弁護士」という)が亡くなられてから2020年で10年になる。津谷弁護士が生前取り組んできた重要なテーマは多数あるが、そのうち不招請勧誘の禁止が最も力を入れて取り組んできた問題と言える。

 津谷弁護士がこのテーマに辿り着いたのは、先物取引と豊田商事による被害救済の経験から不招請勧誘禁止の必要性と重要性を確信したからであると自身で述べているが1、津谷弁護士がそう確信した背景には、かなり早い段階(1985年)から、特に豊田商事の被害救済活動をする中で、個別救済と被害防止の相剋を乗り超える必要があることを痛感したからではないかと思える。

2 個別救済か被害防止か

 消費者被害、特に大規模な詐欺的被害の場合、弁護士は常に依頼者の利益を最大限追求するために個別救済を優先すべきか、あるいは依頼者の当面の利益を犠牲にしても、被害を発生させている業者を破綻に追い込み、これ以上の被害拡大を防止すべきかの間で、苦しく辛い選択や態度決定を迫られてきた。

 この点が、意識的にかつ正面から議論されたのは、私の記憶を遡れば1985(昭和60)年5月28日に秋田市で開催・・・

この記事は会員に限定されています。ログインしてください。
会員になるには「会員に申し込む」をクリックしてください。