『新消費者法研究─脆弱な消費者を包摂する法制度と執行体制─』 (第4回津谷裕貴消費者法学術実践賞【学術】受賞対象)

菅 富美枝(法政大学教授)

1 はじめに─本書の関心

 本書は、様々な脆弱性を有する消費者を、市場において「公正(fair)に」取り扱うための法制度・社会制度について、検討するものである。特に、消費者が「特定の文脈・状況・環境において」有しうる「状況的脆弱性」概念に着目することによって、その制御・解消に向けた環境・ツール作りを行うという観点に立って、考察が進められていく。

 具体的には、①市場における一定の「取引手法に関する脆弱性」、②個別具体的な契約締結場面における「状況・関係性についての脆弱性」、そして、③情報の取得・理解、情報を用いた意思決定など「選択・決定に関する脆弱性」について、論じていく。

 こうした考察を通して、事業者が商品・サービスの提供を考えるにあたり、消費者が有しているかもしれない様々な脆弱性を想像し、現実の場面においてそうした消費者の個別のニーズを把握し、適切な対応をとるよう促すことが期待される。市場において、脆弱性を有する消費者のニーズへの配慮の行き届いた、いわば「ビスポーク」型の商品・サービスの提供が提唱される。実際のところ、昨今の国際的な動きとしても、以上のような視点に立・・・

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