クーリング・オフ後のネガティブ・オプション

弁護士(兵庫) 鈴木尉久

1 はじめに

 訪問販売でクーリング・オフがなされた場合、販売業者が行使しうる原状回復請求権(民法121条の2第1項)の内容は、消費者が受領した原物が残っている場合におけるその原物返還請求に限定され、原物の返還不能・損壊の場合の価額返還請求権は行使できない(特商法9条3項)。

 逆に言えば、販売業者は、クーリング・オフ後も原物返還請求権を行使することができるのであり、その反面として、消費者は給付された原物の保管義務を負うことなる。しかし、クーリング・オフ前の原物の滅失・毀損については、価額返還請求権が封じられている結果、消費者は責任を負わないのに対し、クーリング・オフ後は消費者に保管義務違反があれば損害賠償責任を負うという結論は、均衡を失している。

 したがって、消費者はクーリング・オフ後の原物保管義務を免れ得ると考えるべきである。その条文上の根拠としては、令和3年7月から施行された特商法59条の2のネガティブ・オプションの適用が考えられる。

2 ネガティブ・オプションの趣旨について

 ネガティブ・オプションは、事業者が、契約を締結していない消費者に対して商品を送付することにより・・・

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