日本の食の安全の危機
─「危ないものは日本へ」の構造─

東京大学特任教授・名誉教授 鈴木宣弘

量と質の食料安全保障の喪失

 レスター・ブラウンの著書『誰が中国を養うのか』の背景には、中国の食生活が際限なく洋風化していくという前提がある。ブラウンにかぎらず、欧米人は、彼らの食生活が「進んで」おり、日本や他のアジア諸国は何十年か遅れて、その後を追いかけていくものと思い込んでいるようにも思われる。このような背景もあって、日本人の食生活は自然に洋風化したとか、遅れた食生活が経済発展とともに洋風化するのが必然かのように言われることが多いが、そうではない。

 日本人の食生活変化の大きな要因は米国の占領政策だ。戦後、米国は余剰農産物の最終処分場に日本を位置付けた。麦や大豆やトウモロコシなどの関税が実質的に撤廃されて、一気に米国の農産物が押し寄せ、国内生産は壊滅した。そして御用学者が「コメを食うとバカになる」という本を書き、日本人に米国産小麦を食べさせるために「食生活改善」がうたわれる洗脳政策が行われた。

 米国の農作物に大きく依存することとなると、米国の農作物が危ないとわかっても拒否できなくなる。量的な面での安全保障を握られると、質的な面についても文句が言えなくなり、・・・

この記事は会員に限定されています。ログインしてください。
会員になるには「会員に申し込む」をクリックしてください。