科学と防災のあやうい関係:南海トラフ巨大地震想定と臨時情報

京都大学名誉教授 橋本 学

はじめに

 2024年4月17日23時すぎ,豊後水道下深さ39kmを震源とするM6.6の地震が発生し,愛媛県や高知県で最大震度6弱を観測した.筆者が住んでいる兵庫県南部でも震度2の揺れを観測している.この地震の震源が南海トラフ地震の想定震源域内に位置したため,南海トラフ地震との関連性がないか,各種メディアで議論が湧き上がった.もしM6.8であったならば,気象庁は南海トラフ地震に関する調査を開始していたはずだ.そして,調査結果次第では,「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されていたかもしれない.しかし,規模が小さく,プレート内の正断層タイプの地震であったことから,「南海トラフ地震沿いのプレート境界の固着状態の特段の変化をもたらすものではない」と結論された(気象庁,2024).

 東日本大震災を受けて国は防災の基本方針を大きく転換し,「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの地震・津波を想定」することとした[内閣府,2011a].これまでは過去の災害に倣い,事前に来たるべき災害の規模・タイプなどを仮定して計画が策定されてきたが,これが最大クラスの地震・津波の想定に・・・

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