京都八幡事件に関する民事裁判
─最高裁判決及び下級審判決の法的問題点─

弁護士(大阪) 向井雄紀

第1 事件概要

 京都府八幡市内にて2020年(令和2年)6月はじめに発生した動物殺害虐待事件(以下、「京都八幡事件」という)は、動物保護ボランティアの間で「神ボラ」と称されるほど有名な動物保護ボランティア(以下、「増山」という)が、引き取り手のほとんどいない犬猫を積極的に引き取り続けた結果、増山宅内に犬猫と思われる夥しい数の動物の白骨死体やミイラ化した死体を生じさせる等させたものである。

 京都八幡事件の発覚を契機として、2016年(平成28年)10月29日に増山へと一匹の保護犬(以下、「本件犬」という)を引き渡した動物保護ボランティア(以下、「服部氏」という)は、増山に対し、本件犬を騙し取られたとして詐欺による不法行為(民法709条)を理由として約145万円の損害賠償を求め、増山の民事責任を追及したのが本件である。

第2 下級審判決の問題点

1 第一審(大阪地方裁判所)

(1)判決内容(認容額:6万7750円)

 増山が本件犬を譲り受けた時点で、増山が本件犬を適切に飼養する意思及び能力がなかったと認定し、増山が本件犬を騙し取った事実を認定した。

 しかしながら、服部氏の損害のうち・・・

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