生物多様性回復のラストチャンスをどう生きるか

朝日新聞科学みらい部記者 矢田 文

社会の基盤、生物多様性とは

 私たちの住む地球には、3千万種ともされる多様な生物が生息しているといわれる。そうしたすべての生き物たちの個性やつながりのことを「生物多様性」という。人間は生物多様性の恵みなしに生きていくことはできない。肉や魚、米など生物の命をいただく食はもちろん、羊毛や木材のように衣・住の素材も多くが生物由来だ。医薬品にも生物から抽出した成分が使用されている。きれいな水や空気も微生物などによる自然の浄化作用によってもたらされている。

 生物多様性分野における国際的専門機関「IPBES」は、人間が利用している生物の種類は5万種にのぼると報告する。こうした自然資本は経済活動にとっても欠かせない。世界経済フォーラムの報告書によると、世界のGDPの半分以上の44兆ドル相当の経済価値の創出が自然に依存しているという。

 だが、私たちは生物多様性の恵みを持続可能に利用できてはいない。自然の回復力を上回る過度な開発や消費、生態系に大きな影響を及ぼす外来種の侵入、農薬やプラスチックごみなどによる環境の汚染、気候変動など、人間活動の影響によって、世界の生物多様性は急速・・・

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