住まいの市場化とセーフティネット

摂南大学現代社会学部特任教授 平山洋介

市場化する住宅政策

 政府は、住宅政策の運営において、1990年半ばに“市場重視”の方針を打ちだし、住まいの大半を市場にゆだねる政策をとった。それは、必然の結果として、市場住宅を確保できない人たちの存在を顕在させる。このため、住宅セーフティネット法(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)が2007年に制定され、新しい住宅対策がはじまった。そこでは「低所得者、被災者、高齢者、障害者、子どもを養育している者、その他住宅の確保にとくに配慮を要する者」(法第2条1項要約)と定義される「住宅確保要配慮者」への賃貸住宅供給が促進される。しかし、市場領域を広げようとする政策のもとで、住宅セーフティネットのための公的支援は最小限にとどめられた。

 市場利用を重視する政策フレームのなかで、住宅セーフティネット法の2017年改正は、民営借家ストックを使う手法を導入した。民営借家の空き家が増える一方、多くの家主は、家賃滞納、近隣トラブル、単身者の死後への対応の必要などのリスクを避けるために、低所得者、高齢者、母子世帯などの入居を拒む。ここから、増大する空き家・・・

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