暗号資産におけるトラベルルールと犯罪収益移転防止法等の改正

弁護士(東京) 島 幸明

1 はじめに

 いわゆるロマンス詐欺や、SNSを利用した投資詐欺等において、送金方法として暗号資産が利用されることが増えている。今般、その被害防止等に役立つ可能性がある重要な制度改正がなされたので、以下解説する。

2 自主規制としてのトラベルルール

(1)トラベルルール制定の経緯

 一般社団法人暗号資産取引業協会(以下、「協会」)は、2022(令和4)年4月1日、「暗号資産交換業に係るマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関する規則」を改正し、暗号資産に関する、いわゆる「トラベルルール」を導入した1

 トラベルルールは、利用者の依頼を受けて暗号資産の送付を行う暗号資産交換業者は、送付依頼人と受取人に関する一定の事項を、送付先となる受取人側の暗号資産交換業者に通知しなければならない、というルールである。このルールは、FATF(金融活動作業部会)が、マネロン対策のための国際基準(FATF基準)として、各国の規制当局に対して導入を求めていたもので、電信送金(為替取引)だけでなく暗号資産の移転についても対象にすべきと指摘していた。これを受けて、後述するような犯罪収益移転防止法(・・・

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