悪質事業者の破産手続における消費者の権利と従業員の給与債権

神戸大学大学院法学研究科教授 八田卓也

 事業者が破産した場合の破産手続において、その従業者の給与債権は、財団債権(破149)または優先的破産債権(破98Ⅰ、民306②)として扱われ、一般破産債権よりも優先して満足を受ける。通常の事業者を想定すれば、この規律には合理性がある。

 しかし、その事業者が消費者に対する悪質商法を業とする悪質事業者である場合には、その合理性に疑問が生じる。元会長が総理大臣主催の「桜を見る会」の招待状を受け取っていたことでも世間を騒がせたジャパンライフ事件では、日本全国に多くの被害者を生んだ悪質事業者が経営破綻し、このことが浮き彫りにされた。問題は、実体法・手続法の二面にわたる。

 実体法的な問題点は、悪質事業の維持に寄与した者(従業員)を、その事業の維持により被害を受けた者(消費者)の犠牲のもとに救済することにある。関与が悪質な従業員については、労働契約自体を無効とする等により、このような事態を回避できる。他方で、工場従業者等、直ちに関与が悪質と断定できない従業員も多い。しかし、そのような従業員も、悪質事業の維持に寄与していることに、相違はない。関与形態に拘らず、悪質事業・・・

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