国が建物を私人に売却する場合で、アスベスト使用の有無と種類を知り得ているときは、これを物件調書に記載して買主に通知する義務があるとした事例(松江地方裁判所平成30年(ワ)第100号事件、和解)

弁護士(島根) 田上尚志

事案の概要

 本件は、国が国有財産たる建物(以下「本件建物」という)に飛散性アスベストが使用されていることを知りながら、その事実を原告に秘匿したまま当該建物の原告に売却したため、予想外の飛散性アスベスト撤去費用の負担を強いられた原告が、当該飛散性アスベスト撤去費用相当額の損害を被ったとして、国を相手取って損害賠償を請求した事案である。

 ここでアスベストとは、天然に産出する繊維状ケイ酸塩鉱物の総称であり、蛇紋石系のクリソタイル(白石綿)と角閃石系のクロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトの6種類がある1。安価であり、かつ耐火性、断熱性、防音性、絶縁性など多様な機能を有していることから、かつては耐火・断熱・防音等の目的で、建築物(ビル、学校・病院、工場、一般住宅など)や工作物(駐車場、プラットホーム、変電施設など)に大量に使用されてきた1・2

 しかし、じん肺、肺がん、中皮腫といった重篤な疾病の原因となるため、平成24年3月からその使用が全面的に禁止されている。

 そして、アスベスト含有建材は、発塵の度合いにより「レベル1~・・・

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