生活保護費の過支給分に係る遡及変更決定が法80条の調査検討義務に反し違法として取り消された事例(裁決)

弁護士(埼玉) 鴨田 譲

1 事案の概要

 本件は、埼玉県内の福祉事務所長(処分庁)が、生活保護利用者A(審査請求人)に対して、保護費を過分に支給していたことを理由として、保護費を減額する保護変更決定処分を行い、保護費の返還を求めたが、これを不服としたAが審査請求を提起したところ、審査庁(埼玉県知事)がかかる処分が違法であるとして取消裁決を下した事案である。本件の争点は、保護費を減額する遡及変更決定に伴い保護費の返還を求める場合に、①行政庁が生活保護法80条の適用を考慮してよいか、または、考慮しなければならないか、②考慮しなければならないとした場合、法80条の「やむを得ない事由」の意義をいかに解すべきか、③本件において行政庁が法80条の適用について十分な調査・検討を行ったか、である。なお、審理員意見書では、争点①につき法80条の適用を否定し、審査請求棄却の意見であったが(後記4)、裁決では、行政庁に法80条の適用の検討義務を認め、本件処分を違法とした(後記3)。

2 生活保護法の規定

 生活保護法80条(返還の免除)「保護の実施機関は、保護の変更、廃止又は停止に伴い、前渡した保護金品の全部又は一部・・・

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