バリアフリー住宅に瑕疵

弁護士(東京) 栄枝明典

1 住宅のバリアフリー化の重要性

 住宅のバリアフリー化は、本件のような障がい者だけが必要とする特殊な要求ではない。社会が高齢化する中、車椅子で生活する高齢者も屋外から屋内に入るときや屋内の移動のとき段差があれば移動できないから、住宅のバリアフリー化は誰にとっても生存にかかわる重要な課題であり、他人事ではない。本件は、日本を代表する大手不動産会社である住友不動産株式会社(以下S社という)までもが、住宅のバリアフリー化の重要性の意識を欠落させていることを表す事件である。

2 XがS社に対して要求した設計施工の内容(契約の内容)

 交通事故で遷延性意識障害(いわゆる植物状態)になった息子Tの両親ら(以下Xという)は、S社と工事契約をするに際して、Tの自宅介護のため、①2台以上の駐車場を確保した上で、②完全なバリアフリーの建物の設計および建築を要求した。Tは意識がなく、首を自力で支えることができず、車椅子が段差にぶつかる衝撃で痰が喉に絡み窒息してしまうおそれがあったからである。完全なバリアフリーとは、Tを車椅子に乗せて道路(敷地外)から建物内に安全に入れることができ、建物内で車・・・

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