消費者問題の今後の課題
─消費者法の三つの中期的課題─

一橋大学名誉教授・(独)国民生活センター顧問 松本恒雄

1 はじめに

 本稿は、2022年7月30日の大阪リレー報告会における筆者の報告を要約したものである。リレー報告会では、当面の課題や取組みについての多数の報告が予定されていたことから、少し先をみすえた中期的課題として、①消費者法の基本理念と基本概念、②消費者法の横断的ルールの整備、③デジタル環境における消費者問題の3点を取り上げた。

2 消費者法の基本理念と基本概念

(1)基本理念

 2004に改正された消費者基本法では、消費者政策の基本理念として、「この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力等の格差にかんがみ」(同法1条)とされている。ところが、その4年前に制定された消費者契約法は、「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み」(同法1条)とするのみで、「交渉力」に「等」が付いていない。言い換えれば、消費者契約法は政策の考慮事由が狭い。消費者基本法のいう「等」としては、消費者は必然的に生身の人間であること、人間の脳の構造からくる行動特性(行動経済学でいうヒューリスティクス、バイアス、ナッジ)、個別状況依存的・・・

この記事は会員に限定されています。ログインしてください。
会員になるには「会員に申し込む」をクリックしてください。