崩壊する日本型IR構想の現実

静岡大学人文社会科学部教授 鳥畑与一

はじめに

 「IR(特定複合型観光施設、以下「IR」)整備法」で、日本の国際観光業とMICE産業の国際競争力を飛躍させるとされた世界最高水準の日本型IR推進は、大阪府市と長崎県の「区域整備計画」提出で節目を迎えた。しかしラスベガス・サンズ等の大手カジノ企業の相次ぐ撤退や横浜市のIR反対市長誕生による計画とん挫に続いて、和歌山県議会での「区域整備計画」否決で当初の期待を裏切る申請数となった。申請に辿り着けた「区域整備計画」も世界最高水準のIR実現とは程遠く、開業すら危うい内容となっている。

 成長戦略としての日本型IR構想の厳しい現状の背景には、日本型IRの収益エンジンとしてのカジノの高収益性が低下し、それを前提に設計された巨大投資の枠組みとの矛盾の顕在化がある。コロナ禍収束で解決できないカジノ市場の構造的危機が進んでおり、巨大「ハコモノ」IRの経済効果で刑法の賭博罪適用を阻却しようとした公共政策としての日本型IRの破綻が明らかとなっている。

1 崩壊しつつあるIRカジノのビジネスモデル

 刑法の壁にとん挫した「お台場カジノ構想」以来のカジノ推進は、シンガポールのI・・・

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