これでいいのか消費者契約法
─本来の民事ルールとしてのおおらかさを取り戻せ─

一橋大学名誉教授 (独)国民生活センター顧問 弁護士(東京) 松本恒雄

1 2022年消費者契約法改正

 2022年の通常国会では、消費者契約法の改正案と消費者裁判手続特例法の改正案が一つの束ね法案として審議され、成立した。後者については、特例法の施行後の現実を踏まえて一定の改正を行うものとして評価されているが、前者については、消費者団体や弁護士会からは、2018年改正の際の国会の附帯決議に応えておらず、消費者庁の検討会の2021年9月の報告書の提案の多くにも応えていないとして批判されている1

 比較的に意味のある実質的改正は、事業者の債務不履行または不法行為に基づく責任の一部免責条項であって、重大な過失を除く事業者の過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないものを無効とする8条3項(ある種のタイプのサルベージ条項の無効)の新設だけであり、他は、2018年改正よりも一層針の穴をうがつような困惑勧誘の二つの類型(4条3項新3号及び新4号)の新設と事業者の努力義務を定めるにとどまる。

 消費者契約法は、2000年の制定以来、適格消費者団体による差止請求権を導入した2006年改正のほか、実体・・・

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