現代社会と居住の権利を考える

中京大学総合政策学部教授 岡本祥浩

 2022年2月24日、ロシア軍がウクライナに侵攻しました。建物や街が壊され、人々は居ることすら困難な状態に追い込まれています。何百万人という人々が戦禍を避け、ヨーロッパ各地にそして全世界に移動しようとしています。人はこの地球上に生まれたその瞬間から居る空間が必要です。そして生活には日常生活行為を保障する空間と生活を支える社会的機能の利用が必要です。つまり、命と健康を守る住居と生活の場である居住地や街がなければなりません。戦禍は、それらを破壊して居住の権利を奪います。軍事行動の判断には「居住の権利」や基本的な人権への配慮がありませんが、現代日本社会では「居住の権利」が顧みられているのでしょうか。本稿では高度経済成長期に形成された居住実現の仕組みを振り返り、現在の居住実現の問題点を指摘するとともに「居住の権利」実現の展望を考えます。

1 高度経済成長期の居住実現の仕組み

 現在の居住問題を考える前にその前提となる高度経済成長期に創られた居住実現の仕組みを振り返ります。それは一口で言えば、「就労自立」です。「住まいは甲斐性」などと言われたように一人ひとりが働いて、・・・

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