廃案となった入管法改正案(政府案)をめぐる一連の動向について

はじめに

 名古屋入管収容場で2021年3月に発生したスリランカ人女性・ウィシュマさんの死亡事件は、社会に大きな衝撃と反響をもたらし、関連報道はその後長期間にわたって途切れずに続いている。本稿執筆時直前においては、遺族が当時の名古屋入管局長を刑事告訴したことが報じられたところだ。

 事件発生時においては、折しも政府提出の出入国管理及び難民認定法(入管法)改正法案が国会で審議中であったが、事件を契機に改正法案に対する世間の耳目も集まり、市民社会の反対運動のうねりが大きく拡がった結果、5月になって廃案に追い込まれたことは記憶に新しい。

 とはいえ、その後に行われた衆議院選挙における政権与党の議席確保結果を踏まえれば、政府が、近いうちに入管法改正を再度試みる可能性は大きいと予想される。

 そこで、本稿では、この入管法改正に向けた一連の動向を改めて振り返ってみたい。

そもそもの契機を忘れてはならない

 忘れられがちではあるが、政府による今回の入管法改正法案提出の直接の契機は、2019年6月24日に発生した、別の衝撃的な事件にある。

 この日、長崎県の入管収容施設「大村入国管理センター」において、長期収容されていたナイジ・・・

この記事は会員に限定されています。ログインしてください。
会員になるには「会員に申し込む」をクリックしてください。