宗教被害事件における低額不当和解の合意書は公序良俗違反により無効とした判決

弁護士(東京) 佐々木大介

1 事案の概要

 本件は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会、以下「旧統一教会」といいます)の信者らが、夫と一人息子に先立たれた原告(当時57歳)に対し、夫や息子が地獄で苦しんでいるなどと、ことさらに不安感・恐怖心を煽り、原告の畏怖誤信状態に乗ずる形で、不当に多額の金員を献金等の名目で支払わせ、いまだ畏怖誤信状態にある原告に対し、一部の少額な献金(203万円)の返還をしつつ、その他多額の献金等(財産上の損害の損害だけで約400万円)について旧統一教会等が損害賠償責任を免れる内容の「合意書」を作成し、旧統一教会及び信者らの責任を免れようとした事案です。

2 判決の要旨

(1)東京地裁令和2年2月28日判決

 東京地裁は、旧統一教会及びその信者らに対して、原告の請求額の約9割の賠償を認める判決を言い渡しました。

 原告は、一部の返金を受ける一方で、その余の請求を放棄する内容の合意書に署名押印をさせられていましたが、この点について、東京地裁は、①原告に、その他の献金に関して返還を求める考えすらなかったこと、②旧統一教会側から合意書に関して何らの説明もなかったこと、③合意書によって請求・・・

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