控訴審の審理のない判決

弁護士(大阪) 植田勝博

第1 事件について

 相手方加害者(男性)は被害者(女性)に対して、独身を偽り結婚を前提とした交際をしていたところ、平成24年頃以降、被害者が相手方との交際を断絶を伝えた後、相手方は被害者に会うことを求め、被害者は、会わない、連絡は一切しないことを求めて、居住場所を相手方に隠すために転居をした。

 しかし、相手方はしつこく会うことを求め、相手方から多数の手紙、電話、メールが送られてきて、被害者は、警察OBに相談をし、そのアドバイスで、ストーカー犯罪を止めるために、「会うなら金を払うこと」と言ったところ、相手方は会うことを求め続け数回で150万円を払ってきた。被害者は、相手方がストーカー行為を止めないために、「会わない。手紙、メールなどをしない」などの誓約書を書くことを求め、誓約書を書いてくれれば交付された金銭は返すとのメールをしたところ、相手方は誓約書を書いて被害者に送付した。しかし、その後、10日後ころに、相手方は「金銭のことはどうでも良い。二人のための新しい家を見つけた」として、その家の写真をメールで送信し、その後、約2ヶ月の間に150通余の異常な数のメールを送信した。このため、被害者は精神的に異常な行動を示すようになり、警察OBの支援で警察へ被害届を出した。警察から相手方に警告が入ると、相手方は、相手方の知人などを介して、被害者の多数の関係者に150万円を貸しているので、その回収に協力を求めるとする文書を送った。被害者は睡眠不足、突然落涙したり、思考がまとまらず、正常な講義ができない恐れから大学の了解を得て休職した。以降も相手方は、被害者に対する想いのメールを送る一方で、被害者の勤務先大学の副学長や事務局長を通じて学長へも貸金の回収を求める文書を送り、学長は被害者に「退職するしかない」と申し向けて被害者は大学を退職した。被害者は、ストーカー行為等の規制等に関する法律違反の犯罪の不法行為と、会うために渡した150万円交付は贈与で、犯罪行為を続けるための犯罪目的の金銭交付は法の保護の対象にならないと主張した。

第2 第一次訴訟、加害者の貸金請求と被害者の慰謝料請求事件

1 一審判決、大阪地裁H29.10.11判決(裁判官石上興一);相手方の貸金150万円を認め、被害者の慰謝料110万円を認めた。

 この訴訟手続の法廷で、相手方から被害者に本を返還するとして相手方弁護士から返された本に、相手方は被害者への想いの文書が隠して被害者に渡された。

2 控訴審判決、大阪高裁H30.9.25判決(裁判長池田光宏、長谷部幸弥、寺西和史):相手方の貸金150万円を認め、被害者の慰謝料165万円を認めた。

第3 第二次訴訟、加害者の行為による休職、退職の損害賠償請求事件

1 一審判決、大阪地裁R1.6.25判決(裁判官末長雅之):加害者のストーカーによる大学の休職及び大学の退職の損害賠償金320万円を認めた。

2 控訴審判決、大阪高裁R2.2.6判決(裁判長木納敏和、安田大二郎、山本善彦):原判決変更して訴えの棄却した。被告の被害、損害を認めなかった。

3 最高裁R2.10.16決定(裁判長菅野博之、三浦守、草野耕一、岡村和美):上告を棄却し、上告受理をしないと決定した。

第4 第二次大阪高裁は、審理がされず、裁判官の適宜の創り上げた認定がされた。

1 控訴審の審理は、相手方から、被害者の勤務先大学での被害者が出席をしていた会議録や、出所不明の資料が出され、被害者は通常勤務ができるのに休職をし、自分の意思で退職をしたと主張した。大学の休職措置や、退職を強いる措置を否定する証拠には当たらないとして、被害者は、当事者、相手方の人証申請などの証拠調を求めたが、裁判所は、証拠調を認めず、審理はなかった。

 高裁判決は、裁判官の適宜の解釈で、作文と言うべき認定がされて、被害者には被害はなかったとの判決がされた。

 大阪高裁は、既に、第1次訴訟の2本の判決、第2次訴訟の一審判決の3本の判決が出されれている中で、従来の証拠、さらに新たに出た証拠の正誤を検討する審理はなく、自己の一方的な想いでの作文の判決がされた。

 従来の裁判で認められていた被害内容は、以下の通り、その反対証拠の存在と検討はなく、ことごとく否定した。

(1)大阪高裁判決「相手方が誓約書を作成して被害者に郵送したが、その後も被害者は受領した金員を返還せず、相手方から被害者に対する電子メールの送付(約2ヶ月間で150通)も継続された。その頃まではむしろ被害者が主導権をもって相手方を振り回していたともいえる状況がうかがわれ、少なくともその頃までは被害者は相手方の対応にストレスを感じることはあっても、それが心身に不調を来す程度には至っていなかったものと認められ、他に、上記期間中に被害者の心身の不調が高まっていたことを認めるに足りる客観的な証拠はない。」(警察官OBの「被害者の言動はおかしく異常が認められ警察への被害届を支援した」との陳述書は審理対象にもされず無視された)

(2)大阪高裁判決「(誓約書を送付して数日後)相手方は「本気になれました。六甲道からもすごく近い場所です。」として二人で住むつもりの住居の室内写真を添付したメールを送信したのを皮切りに、被害者へのメール送信を再開させ、1ヶ月余までに合計154通のメール送信がされた。」「金員を返還しなかったそのような被害者の態度から、お金を払わないということは戻ってきてくれる意思が少しはあるのではないかと期待したものと推認する。」(事実の捏造と言える)「被害者は、その後も金員を返還しなかった」

(3)大阪高裁判決「(警察に被害届出した以降)、相手方からの連絡が途絶え、その後約半年間にわたりメール送信等もなく面会を求められることもなかったことが認められる。被害者は平穏な生活を取り戻し、安定した生活を行うことができる環境を得られたものと考えられ、したがって、被害者の心身の不調は相当程度に改善され得たものと認められる。」(事実は、相手方は、被害者の大事な知人等に150万円の返還協力の依頼文書を出し続けていた)

(4)大阪高裁判決「被害者が(4月から休職の年)2月頃までにおいて心身の不調が大学を休職せざるを得ない程度にまで増大していたことを認めるに足りる客観的証拠はない。」(大学が休職を承認した事実は無視)

(5)大阪高裁判決「相手方が被害者に交際の再開等を求める行為が、被害者の心身の不調をもたらす要因になっていたとは思われるが、医療機関への通院を始めるなど被害者の心身の状況の悪化を窺わせる事情は認められない」「被害者としてストーカーの被害に当たるとして警察に相談するなどの措置を採ったり、職場に復帰することが困難であることを理由に、大学に対して職場環境の改善を求めたりするまでには至っていない。」

 (被害者は、臨床心理センターの准教授にカンセリング治療を受けていた。被害者は、警視庁に相手方のストーカー犯罪行為の被害の相談し、ストーカー専門という法律事務所にも相談した。)

(6)大阪高裁判決「被害者が大学を退職した理由としては、大学の事務局長から、被害者と相手方間のトラブルに大学は介入できない旨告げられて、同大学学長から退職勧奨を受けたことから、被害者は、大学が被害者には退職してもらいたいと考えているし、職責上そのように考えることもやむを得ないと考えて、自らの意思で退職を決意して退職した」「被害者が相手方に責任がある行為に基づく退職勧奨があったのであれば、被害者には退職しないという決断をすることも十分可能であった」(退職勧奨は相手方の被害者の勤める大学への文書送付が原因であることは事実で、警察OBの教授は大学へ大学人を犯罪から守るべきとの申出を大学にしていた。この陳述書は審理の対象にもされなかった)

(7)大阪高裁判決は、審理なく、他の証拠への顧慮、審理もなく、一方的な作文認定で、相手方の行為による休職、退職の被害はなかったとして損害はないと認定した。

2 上記の大阪高裁判決は、審理が全くなく、過去の判決の証拠や判決文が審理もされず理由もなく、独自の一方的作文によるものと言うべきものである。

 今、裁判所は弁護士の書面と本人の陳述書のみで、尋問(反対当事者による検証)をせず、裁判所が、当事者の出した証拠を適宜ピックアップをして作文をして判決がなされている。神様でもないのに、双方の主張のみで自己の判断で正確な事実認定ができるわけはない。

 今、問題となっているのが、法廷における尋問等の証拠調べがされていないこと。控訴審は一審判決で不十分な点について、さらに新たな証拠の採取と審理をすべき民事訴訟の法律規定を踏みにじる。およそ、司法と言いがたい。審理のない裁判所は裁判所とは認められない。司法の崩壊と言わざるを得ない。