負債という権力

齋藤幸平
大阪市立大学准教授

資本主義は豊かな社会を作り出した、一般にはそのように考えられている。ところが、実際はそれほど単純ではない。身の回りを見渡せばわかるように、資本主義は、欠乏、困窮、希少性で溢れている。実は、資本主義は、希少性を生み出すシステムなのだ。

その一例が「負債」である。無限の生産と消費の過程で、資本主義に暮らす私たちは豊かになるどころか、借金を背負うのである。

借金なしに暮らせる人はほとんどいないだろう。そして、負債を背負うことで、人々は従順な労働者として、つまり資本主義の駒として仕えることを、強制されるのである。

その最たる例が、住宅ローンだ。住宅ローンは、額が大きい分、規律権力としての力が強い。膨大な額の30年にもわたるローンを抱えた人々は、その負債を返すべく、ますます長い時間働かなくてはならない。借金を返すために、人々は資本主義の勤労倫理を内面化していく。残業代を得るために長時間働いて、出世のために家族を犠牲にするのだ。

場合によっては、共働きでも足りずに、昼夜にまたがるダブルワークをしなくてはいけないかもしれない。あるいは、食べたいものを我慢して、もやし炒めや具なしのト・・・

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