一橋大学名誉教授 弁護士(東京) 松本恒雄
1 はじめに
日本の製造物責任法は、EUの旧製造物責任指令(旧指令)の影響の下に制定されたが、いくつか大きな差があった。本稿では、新製造物責任指令(新指令)の詳細は朝見論文に委ねて、新指令によって日本法との差がどうなったかを概観したうえで、製造物責任法のデジタル社会対応がどのようにすれば可能かを検討する。新指令の背景にはいくつかの理由があげられているものの、プラットフォーム経由の越境取引を含むデジタル化の急速な進展が一番重要であり、この点については日本も変わりはないからである。
2 新製造物責任指令と日本の製造物責任法
(1)製造物
旧指令では、農産物・畜産物・海産物・狩猟物・電気も製造物として対象になるが(旧指令2条)、製造物責任法ではこれらは対象外であり、電気以外は、加工された場合にのみ対象となる(法2条1項)。
新指令では、新たに「デジタル製造ファイル」とソフトウェアが製造物に含まれることとなった(新指令4条(1))。製造物責任法では、ソフトウェアは、ファームウェアとしてハードウェアと一体化されていなければ、製造物に該当しないと考えられており、デジ・・・
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