追悼 井上善雄先生を偲んで

弁護士(大阪) 島川 勝

 井上善雄弁護士の訃報を聞いて、体から何かが抜け落ちたような喪失感を味わった。

 井上さんとはこれまでいろんな場面で知り合い、事件も共にしてきた。

 あの細い体にエネルギーが満ちており、全く人が思いつかないような鋭い感覚で事件を切り拓いてこられた。「珍訴、奇訴の井上」と呼ばれていたのだが、とても豊かな思考を持っておられた。

 そして、われわれが見過ごしている事柄について、極めて斬新な切り口で法的な課題を設定し、社会的な関心を呼ぶ裁判や運動に結び付け、その成果を得られた活動であった。私と井上さんとの共にした事件としては、消費者訴訟と公害訴訟がある。

 消費者訴訟としては「近鉄特急料金訴訟」があった。私が毎日通勤するのは奈良難波間の近鉄奈良線であり、井上さんは橿原神宮に住んでおられ近鉄南大阪線で大阪に通勤していた。近鉄は、我々の通勤区間に有料の特急車両を通勤時間帯に走行させていたので、一刻でも早く急ぐ通勤者は、どうして有料特急を利用せざるを得ないようなダイヤの状況であった。このような特急料金は戦時中に認可されたものであるが、裁判では特急料金認可が違法であるとし、支払済みの特急料金の返・・・

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