「修理する権利」に関するEU指令についての解説

京都産業大学法学部教授 古谷貴之

Ⅰ はじめに

 本稿の目的は、EU(欧州連合)における「修理する権利(Right to Repair)」に関する指令(以下「修理権指令」という)について、2024年5月現在の状況を整理することにある。「修理する権利」とは、消費者が購入した商品に欠陥が生じた場合に、消費者が自らその商品を自由に修理することができる権利のことをいう。早すぎる商品の廃棄が地球環境に様々な悪影響を及ぼすことが知られている。修理権指令は、消費者の修理に対する権利を強化することによって、このような社会的課題に対処することを目指している。

Ⅱ 背景

 修理権指令の立法構想は、2019年12月11日に欧州委員会が公表した「欧州グリーン・ディール」1に遡る。欧州委員会は、この文書の中で、クリーンで循環型の経済を実現するための循環型経済行動計画を策定し、「修理する権利」のニーズを分析することを示していた。その後、同委員会は、2020年に公表した「新循環型経済行動計画」2及び「新消費者アジェンダ」3において、「修理する権利」の確立に向けて取り組むこと、また、より循環的な製品を提供するうえで法定保証制度が果た・・・

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