事業者がリコール的介入を行った心臓ペースメーカー等の潜在欠陥と損害
─欧州連合司法裁判所の予備判決(2015年3月5日)─

一般社団法人日本消費生活問題研究所主任研究員 土庫澄子

1 はじめに

 欧州連合(EU)では、1985年の製造物責任指令(以下、現指令)制定から約40年が経ち、デジタル化の進展とグリーン経済への移行期にふさわしい全面改正の動きが進んでいる。新指令の立法過程における検討テーマには、欧州連合司法裁判所(CJEU)が現指令の解釈について形成してきた判例法の成文化が含まれている。

 そこで、生命を維持するインプラント式医療機器に潜在する危険をめぐり、CJEUが欠陥と損害といった製造物責任の基本概念をいわば拡大的に解した例を参考として紹介したい。

2 事案

 ドイツのA社は、米国で製造された心臓ペースメーカーと埋め込み式除細動器を輸入し、ドイツ国内で販売した。

(1)第一事件

 2005年7月22日、A社は「緊急医療機器情報と対応策」を発出。外科医に対して、心臓ペースメーカーに使用する気密封止コンポーネントが徐々に劣化してバッテリーが早期消耗し、警告なしにテレメトリーの損失および(または)ペーシング出力の損失をもたらすと伝え、機器の交換を推奨した。

 この推奨に従い、1999年9月に患者Bに埋め込まれたペースメーカーが2・・・

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