南山大学教授 王 冷然
周知のように、判例・通説により形成された過失相殺理論は、基本的に交通事故をはじめとする事実行為的不法行為を対象に展開されてきたが、裁判実務において、事実行為的不法行為のみならず取引的不法行為に関しても、過失相殺が次第に拡大されるようになった。筆者の調べによると、近時の投資取引訴訟を取り扱う裁判例の大半は過失相殺を行っており、しかも過失相殺を認定した裁判例の約半数は5割以上の過失相殺を行っている。
しかし、事実行為的不法行為の場合は、責任保険などの関係で、加害者の責任成立要件を緩和して損害賠償責任が認定されていることとの関係で、被害者の過失の認定も緩和して賠償額の制限を行うという要請があり、過失相殺の拡大適用が求められたのに対し、取引的不法行為の場合は、加害者の損害賠償責任が必ずしも認定されやすくなったわけではなく、公平の見地から賠償額を制限するために過失相殺を拡大適用する社会的ニーズは見当たらない。
また、事実行為的不法行為の場合と取引的不法行為の場合における加害者と被害者の関係性がそれぞれ異なる。事実行為的不法行為においては、加害者と被害者が偶発的事故により当事者と・・・
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