契約締結過程の規律と行動経済学

京都大学大学院法学研究科准教授 西内康人

1 はじめに

 消費者の意思決定が問題とされる場合、一方では、効果として、法学の議論を用いて取消し等が使えないか、様々に議論されている。他方、こうした効果を発生させる前提として、いかなる消費者の意思決定が問題となっているのかの要件確定について、心理学や経済学が用いられることがある。ここでは、事業者が消費者に行う契約誘引のモデル化の一側面につき、こうした心理学や経済学を借りて解説する。

 具体的には、以下の検討順序をたどる。次の2では非効率が生じそうなモデルケースを考える。3ではこのモデルケースへの対処について、経済学のみならず心理学の助けを借りて、つまり「行動」経済学の助けを借りて、対処すべき場面が具体化されることを見ていく。4で規律の主体や形式の問題について概説し、5でまとめを行う。

2 モデルケース

 事業者が消費者に行う契約誘引のうち社会的に禁圧すべきものは、経済学の助けを借りてやや抽象的にモデル化すると―二つ以上の組み合わせが使われる場合もあるが―次の三つに分けられる。

 第一に、目的物の価値を誤信させる『詐欺型』である。たとえば、事業者が5の費用を投下し・・・

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