相次ぐ生活保護ケースワーカーの刑事事件

花園大学社会福祉学部教授 吉永 純

 今回は、生活保護法の運用等が争点になった事件ではなく、生活保護ケースワーカー(以下、CWと略)が被告となった刑事事件を取り上げる。扱う事件は、滋賀県米原市の事件(2020年12月22日大津地裁判決)と、京都府向日市の事件(2020年3月26日京都地裁判決)である(両事件とも被告人は公訴事実を認め一審で確定)。いずれも、生活保護利用者による、いわゆる不当要求に抗しきれず、職場の組織的支援が不十分な下で、孤立したCWが犯行に及んだ点、また、CWの数が五人以下の小規模の福祉事務所で発生した事件であることで共通するものである。

1 米原市の事件

(1)判決の概要

 各報道によれば、A被告は、2019年10月から被害者男性を担当したが、いわゆる不当要求に苦しみ、男性と円滑な関係を築くため、次第に勤務時間外の私的な要求にも応じるようになり、ユーチューブに投稿するための動画撮影の手伝いなどを頼まれ引き受けていた。A被告は手伝いを止めたいなど男性に申し出たが同意を得られなかったため、ついに殺害を決意し、同年12月24日夜、長浜市の自動車内で、男性の腹部を包丁で刺し、全治約10・・・

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