高齢者・重度知的障害者の世帯からの生活保護申請について、これらの者に対する身体的・経済的虐待を行っていた別居の親族をあえて申請却下決定の通知の場に同席させて定期貯金の存在・内容を告知したことが国家賠償法上違法とされ、この親族によって解約させられた定期貯金相当額の賠償が命じられた事例(福岡高裁宮崎支部令和4年11月9日判決(TKC25594147))

髙木佳世子(筑紫女学園大学人間科学部)

1 事案の概要

 X(2017年の本件当時、60代)には重度知的障害があり、Xの母E(同じく90代)と同居していた。DはEの次男でXの弟であり、2013年3月ころ刑務所を出所してきたDと同居していた時期があったが、DがXとEに暴力を振るうため、XがY市の社会福祉協議会に相談し、XとEは転居した。その後もXは相談支援事業所の職員に対し、Dから金銭を要求されることや、暴力を受ける恐怖のため言うなりにお金を貸していることなどの相談を数度にわたり行った。Y市福祉事務所の障害福祉係及び高齢者福祉係もこのような状況を把握していた。また、EもDから肋骨骨折や腕を数針縫う等の傷害を負わせられ、暴力を逃れるため節約してお金をDに渡していた。

 2017年1月18日、EはY市福祉事務所において生活保護申請を行ったが、Eは字が書けないと言いDが申請書を代筆した。DからはXを「ボコボコにした」とか、これまでにXらの預貯金、火災保険金、土地の売却代金等合計約2500万円を使い果たしたので本件生活保護申請に来たなどの発言があったため、J保護係長(以下「J係長」という。)はDに席を外さ・・・

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