第1章 消費者信用(金融)

弁護士(大阪) 井上耕史

1 はじめに

 過払金に関する裁判例は大きく減少している。しかし、既に何年も前に下級審裁判例の積み重ねによって決着済みであるはずの論点についても、裁判官が忘れたころに、再び蒸し返してくることもある。ここ1年間に本誌で紹介された裁判例で争われている論点は、既に過去の消費者法白書でも取り上げたものが多いが、貸金業者による蒸返しを許さないという点で有益である。

 これまでの到達点について、過去の「消費者法白書」や『過払金返還請求・全論点網羅2017』(民事法研究会)(以下「全論点網羅」という)などの文献にあたって確認することも引き続き必要である。

2 過払金の充当ないし一連一体計算

(1)切替え

 貸金業者から借り入れた資金によって従前の取引を完済したものと扱う、いわゆる「切替え」「借換え」「貸増し」事案において、貸金業者が、取引の連続性を否定して充当を争う事例が無担保から不動産担保への切替えを中心に増加した。最三小判平成24年9月11日民集66-9-3227(以下「平成24年最判」という)が不動産担保切替えの事案で事実上1個の連続した貸付取引であることを否定したことが引き金となり、・・・

この記事は会員に限定されています。ログインしてください。
会員になるには「会員に申し込む」をクリックしてください。