ヘイトスピーチ禁止法の制定を求める日弁連の意見書について

日弁連ヘイトスピーチ対策プロジェクトチーム副座長 弁護士(東京) 北村聡子

1 意見書発出に至る経緯

 人種等を理由とする差別的言動(以下「ヘイトスピーチ」という)は「魂の殺人」とも表現される重大な人格権侵害であるとともに、「沈黙効果」により相手の表現の自由をも奪う。また、ヘイトクライムやジェノサイドを誘引する危険性をはらんでいることは、ナチスによるホロコーストや、1994年のルワンダでの大虐殺といった他国の出来事を紹介するまでもなく、関東大震災直後の朝鮮人等に対する大虐殺という100年前の史実によっても想起されるところである。

 そのようなヘイトスピーチに関して、2016年5月、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(以下「ヘイトスピーチ解消法」という)が制定された。しかし、同法で規定されたヘイトスピーチの対象となる者の範囲は後述するとおり極めて狭く、また、禁止規定を持たない理念法であること、事後救済の仕組みを持たないという点で、効果は限定的であると指摘されてきた。現にヘイトスピーチ解消法が施行されて8年が経とうとしている現在も、路上で白昼堂々、聞くに堪え・・・

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