特定商取引法の改正─マルチ商法の登録制に向けて─

芸術文化観光専門職大学非常勤講師 圓山茂夫

 筆者の「連鎖販売取引の規制強化に関する一試案」と題した論文が、長井長信先生古稀記念『消費社会のこれからと法』(2024年1月刊・信山社)に収録された。編集部から、当論文のポイントを述べてほしいと要請を受けたので、要約して紹介したい。なお、詳細は上記の書籍をご参照願いたい。

1 連鎖販売取引の規制を振り返る

 1970年代にアメリカから日本に上陸した悪質マルチに対し、1976年に訪問販売法が立法され、その一章として連鎖販売取引の規制が始まった。その方法論は「実質的禁止」、すなわち開業規制はせず、勧誘者が事実の不告知や不実告知をすると、そこで取引停止を命令する、または刑事罰を科すという仕組みである。「マルチに加入すると自分あるいは自分が誘った者が損をする」という事実を告げられたら誰も加入しない。逆にいえば、加入する者が出てきた場合は事実不告知または不実告知があったとみて取締りをすればマルチを絶滅できる、と当時は考えられていた。しかし、「実質的禁止」の方法論では、被害は抑止できなかった。理由として、以下が挙げられる。

① 1975年、公正取引委員会が悪質マル・・・

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