2023年改正金商法・金サ法における「広義の適合性原則」および「顧客の最善利益」の法定義務化ついて

北海道大学大学院法学研究科・教授 牧 佐智代

1 はじめに

 2023年11月20日、第212回国会にて「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第79号)が成立した。同法は、金融商品取引法(以下「金商法」とする)のみならず金融サービスの提供に関する法律(本改正により「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」に名称変更される。以下では改正前・改正後ともに「金サ法」と略する)も併せて改正するところ、両法の改正には民事責任に関係するものが含まれる。本稿は、その改正内容を簡単に紹介すると共に1、プリンシプルとルールとの重層的なアプローチによって金融事業者に「顧客本位の業務運営」を促そうとする金融庁の法政策を明らかにする。

2 改正内容

 今般の改正項目のうち、①書面交付義務から情報提供義務への文言修正(金商法37条の3第1項)、②広義の適合性原則の法律上の規定への引き上げ(同条2項)、③顧客の最善利益・誠実公正義務の業態横断的明文化(金サ法2条1項)が、民事責任にも関係する。

(1)情報提供義務

 金商法37条の3第1項は契約締結前の「書面交付義務」を定めているところ、「情報提供義務」・・・

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